アダルトチルドレンにあらわれやすい「対人恐怖症」

「人前に立つとすごく緊張して上手く話せない。」
「初対面の人と接するのが苦痛。できれば避けたい。」
など

大勢の前で話す時や初対面の人と話しをする際に緊張するのは、ごく自然な反応です。

しかし過度に緊張して、普通の社会生活を送るのに支障をきたすようであれば
「対人恐怖症」
となっている可能性があります。

【1】対人恐怖症とは

対人恐怖症( 英訳:Taijin kyofusho, taijin kyofusho symptoms ; TKS)とは

他人と同席する場面で、不当に強い不安と精神的緊張を生じ、
・他人に軽蔑されるのではないか
・他人に不快な感じを与えるのではないか
・嫌がられるのではないか
と心配し、対人関係から身を退こうとするものです。

英語訳に日本語(Taijin kyofusho)がそのまま使われています。

これは「恥」など「他人の目を気にしやすい」と言われている日本特有の社会・文化の中で生まれる独自の症状だと考えられていたことに由来します。

その後研究が進み、文化的環境に関わらず欧米でも同様の症状があることが分かりました。
しかも発症割合が欧米でもあまり変わらないことが明らかになってきています。

【2】対人恐怖症の症状や場面にはどんなものがあるか

どんな場面の中で、どんな事が極端に不安になるのか。
対人恐怖症の症状には様々なものがあります。

【2】-1 基本的な症状

①感情的な反応
強い不安・恐怖を感じる。

人に見られることだけでない。
不安や恐怖による身体反応を見られて、自分が怖がっていると人に気付かれることにも不安や恐怖を感じる。

②身体的な反応
不安・恐怖によって、震え、発汗、動悸、息苦しさ、顔や身体の筋肉がこわばるなどの身体症状がでる。

「①感情的な反応」⇔「②身体反応」の双方が互いに影響しあい、症状が加速してしまうこともあります。

【2】-2 特徴的な症状・場面

赤面恐怖
自分の顔が赤くなっていることで、人から笑われるのではないかと気にしてしまう。
スピーチ恐怖
人前でうまく話せなくて、他人からバカにされたり評価が下がることを気にしてしまう。
視線恐怖(他人の視線)
他者の視線を受けることで落ち着かない。視線を感じるだけで不安や苦痛を感じてしまう。
視線恐怖(自分の視線)
「自分は目つきが悪い」など、自分の視線が他人を不快にしていると気にしてしまう。

醜形恐怖
自分の身体や外見を醜く感じる。
そして他者から醜い、変だと思われるのではないかとを気にしてしまう
電話恐怖
上手く話せず、電話の相手や電話での会話を周りで聞いている人から変な人だと思われるのではないかと気にしてしまう。
会食恐怖
食事の場で上手く立ち回れず、相手や周りを不快にさせてしまうのではないかと気にしてしまう。
自己臭恐怖
体臭や口臭など自分のにおいがして、周りから不快に思われるのではないかと気にしてしまう。

また一般的にはその人のクセや性格として扱われやすい、異性に関する過度の不安・恐怖も対人恐怖症の一種と見て良いでしょう。

男性恐怖
男性に触れられること、男性と話すこと、男性と一緒にいることそのものへの恐怖
女性恐怖
女性との交流、女性と話すこと、女性と一緒にいることそのものへの恐怖

【3】対人恐怖症の影響

人前で緊張しやすいだけなら、その場面をなんとかやり過ごすことも可能です。

しかし過度に不安や恐怖が強く、上手く振る舞えないことが長く続いたり。
また不安な場面から逃げようとすると、様々な支障が出てしまいます。

能力を十分に発揮できない
たとえどんなに音楽・美術などの芸術や、IT技術などの才能・実力があったとしても。
人と関わる場面が苦手であれば、相手から理解・評価されにくく、せっかくの能力を十分に発揮できません。

チャンスを逃す
就職・転職の面接、新しい仕事のチャンス、新しい人との出会いなど、人生のチャンスは人を通じてやってくることが多い。

しかし人と関わることが極度に苦手であったり、人と会う機会を避けてしまうと、せっかくのチャンスを逃がしてしまいます。

問題解決が遅れる
人と関わることがおっくうになると、人に相談したり、人に協力・支援を求めることが難しくなります。

そのため問題に直面した時に自分一人で抱えてしまい、結果的に問題解決が不十分だったり、遅れてしまいます。

【4】対人恐怖症の原因

【4】-1 失敗・恥などの強いトラウマ経験

人前の発表で失敗して恥をかいたなど、なんらかの失敗・恥の体験がキッカケとなって、過剰に人目を意識するようになったケースは多い。

人前に出る場面になると、無意識の内に過去を想いだしてしまい「また同じ失敗・恥をかくことになったらどうしよう?」と不安・恐怖に陥いるのです。

また学生時代にいいじめなどを受けていた場合、この体験も原因となりえます。

「他人は自分に対して攻撃的である」という意識が根付いてしまうと、
「他人を不快するとすぐに攻撃されてしまう」と極端に恐れてしまい、対人恐怖症の要因となってしまうのです。

【4】-2 性格・幼少期の環境

「内気な性格」は対人恐怖症になりやすい。

しかし対人関係が苦手でも
「自分は内気な性格だから」
と片付けられるほど単純ではありません。

もちろん持って生まれた「資質」はあります。
しかし不安や恐怖心が強い場合は、幼少期の環境・体験が大きく影響していることが非常に多いのです。

特に両親が子どもに対して過干渉、無関心、ネグレクトなどの傾向があれば。
子どもは自分の存在そのもの、生きていること自体を不安に感じてしまいます。

そして世の中や他人に対する漠然とした不安も抱えやすくなる。
そうすると、他人とあまり関わらろうとしなくなりやすいのです。

【4】-3 バーストラウマの大きさ

バーストラウマとは
・胎児期から生後3 ヶ月くらいまでの間
・満たされなかった欲求と傷ついた経験
によって形成されます。

誰もが生まれた時に持つものと言われています。

同じ体験、境遇であってもトラウマになりやすいかどうか。
また自己肯定感が低くなりやすいかどうかは、バーストラウマの強さにもよります。

バーストラウマが強ければ強いほど、漠然とした不安を頂きやすい。
そして同じ失敗・嫌な出来事に直面したとしても、より傷つきやすくなってしまうのです。

【5】対人恐怖症の回復方法

ではどのようにすれば対人恐怖症は回復するのでしょうか?

【5】-1 カウンセリング

一人で悩んでいる時は思考がまとまらなかったり、客観的に見ることが難しくなります。

そのため、どんな時にどんな症状が出ているのか。
またどんな状況で強く症状が出るのかなど、自分の状況が見えにくくなりがちです。

そのため、第三者である信頼のおける専門家にキチンとヒアリングしてもらう。
そうすることで、状況が整理され、感情的にもスッキリし、症状に向き合いやすくなります。

その上で原因となる体験・環境など思い当たるものが整理・明確化できてくると、自己理解が進み、回復に向かうことができるようになるのです。

【5】-2 精神療法

精神療法で代表的なものは認知行動療法です。

対人恐怖症の症状が出る直接のキッカケは人前に立つ場面。

恐怖症の方はそういった場を「失敗したり、恥を受けるかもしれないマイナスの場面」と必要以上に悪くとらえる傾向があります。

この物事の捉え方(認知)を修正することで症状を軽くします。

しかし比較的簡単に捉え方を変えられるのは、軽い症状に限られるでしょう。

捉え方のパターンが出来るキッカケとなったネガティブな体験(恐怖・恥など)。

この時の心の傷が癒えてないと、表面的に捉え方を変えても、結局な長続きしないのです。

【5】-3 薬物療法

医師に処方される薬物療法の主な目的は、脳内の状態を正常化し、過剰な不安や恐怖を抑えることです。

西洋医学では感情や心の動きを脳内の働きだと考えます。

そのため過剰な不安や恐怖を脳内の神経伝達物質のアンバランスととらえ、このバランスを整えるために薬物を使用するのです。

【5】-4 トラウマケア

対人恐怖症の要因には幼少期のトラウマや失敗・恥体験によるトラウマが関わっていることが非常に多い。

そのため、要因となったトラウマを軽減させることが非常に有効です。

暴露療法(Exposure therapy、エクスポージャー法)
不安障害に用いられる行動療法。
患者が恐怖を抱いている物や状況に対して危険を伴うことなく直面させる。

そして「心配していたことは起きなかった」「平常心のまま居られた」などの成功体験を積み重ねることで、不安や苦痛を克服させるもの。

EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing:眼球運動による脱感作と再処理法)
トラウマとなっているつらい記憶を心に思い浮かべながら、指の動きや機械の光の動きを追い、目を動かすことによって脳機能を正常化させるもの。

エネルギーワーク
トラウマを一種のエネルギー体と捉え、トラウマを直接軽減させるもの。

目に見える物体・肉体を全てとする西洋医学の唯物論ではなく、気などの見えないものも含めた東洋医学的な身体構造論に基づく。

本人につらい記憶を思い起こさせずトラウマを軽減させることができる。
そのためクライアントに負担が少なく、継続的に処置を受けやすい。

まとめ

子どもや学生の時は気の合う友人と過ごす時期が長いため、問題が表面化しにくい。

そのため、社会人になって苦手な人、初対面の人とたくさん会うようになることになって、初めて対人恐怖症の症状を自覚する人は多い。

また仕事や家庭での大きな失敗・挫折をキッカケに、対人恐怖症になってしまう方もいます。

症状を自覚した人の中には
「これは自分の性格だから…」
と諦めてしまう人もいるでしょう。

しかし原因となった「過去の体験」「心の傷」と向き合い、適切な処置をすれば症状は軽減されます。

あまり思い出したくない過去に目を向けることは、嫌だと思われるかもしれません。

しかし、過去としっかり向き合うことは、
今感じている「生きづらさ」の解決につながっていくのです。



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