身体的なもの、精神的なものどちらであっても、病気になるのはつらいものです。
大きな不調を抱えること自体が苦痛を伴いますし、病気という悩みがあることで行動が制限されることもありますね。
また治療のための費用や時間がかかることも、大きなデメリットになるでしょう。
一般的には誰もが健康という「幸福」を望み、病気という「不幸な状態」は治したいものだと思われています。
しかしアダルトチルドレン(AC)の場合、「不幸」を手放したくない心理が働いて、なかなか改善に向かえないことがあります。
その理由の一つは潜在的に持っている「親への復讐心」です。
【1】強く願っていても、叶えられない想い
本人の自覚が少ないことも多いですが・・・
ACは親への怒り、悲しみなどを多く抱えた人です。
そして親から受けた自分のつらい想いや体験を理解してもらい、受け止めてもらいたいと強く願っています。
親に謝ってもらいたいと思っている人もいるでしょう。
しかし多くの場合、親はなかなか理解してくれません。
「今さら子どもの頃のことを言っても・・、仕方がないだろう。」とか
「(自分の想いを)伝えたとしても、分かってもらえそうにない。」
などと思い、諦めてしまっている人もいるかもしれません。
また人によっては、実際に和解を求めて親と話しをしようとしたが、上手くいかなかった経験があるかもしれません。
いづれにしても、親に理解してもらいたいと強く望んでも、なかなか叶うことはない。
アダルトチルドレンはこのジレンマの中にいるのです。
そしてこの潜在的なジレンマが強ければ強いほど、親を攻撃したい気持ちも自然と生まれます。
良い悪いは別にして・・
これは潜在的な「親に対する復讐心」となるのです。
【2】幸福になってはいけない
このジレンマの中にいると、無意識のうちに「自分が幸福になること」を避けようをする心理が働きやすくなります。
自分が幸福でいること。
例えば、健康で豊かでいることは「親が良かった」という親に対する肯定的な評価につながると思われがちです。
「親の育て方が良かったから、子どもが幸福になった。」
つまり「子どもの幸福」は「親の育て方には何も問題がなかった」ことの証明になりかねません。
ACは内心、そんなことは許せないのです。
親が認められてしまうことは、自分のつらい体験を否定すること、無かったことにすることになりかねません。
そのため逆に自分が不幸の状態にあることによって、親を否定しようとするのです。
つまり「子どもの不幸」は「親の育て方に問題があった」ことの証明になると考えてしまうのです。
これは親に対する攻撃であり「復讐」でもあります。
しかしこの一連の心理について、AC本人には自覚がないことも多い。
自覚がないまま、チャンスを逃したり、幸福を自ら遠ざけてしまうこともあります。
幸福を目の前にした時に怖気づいたり、受け取れないと思って、身を引いてしまったり。
人によっては、幸福な人間関係や状況を、なぜか自分から壊してしまったりする場合もあります。
病気でも同じです。
自分では表面的に「良くなりたい」と思っていたとしても、潜在的に実は「良くなってもらっては困る」と思っているので、なかなか改善に向かいにくい。
アダルトチルドレンの人生が混乱しやすい理由の一つがここにあります。
【3】潜在的に持っている「親への復讐心」は盲点になりやすい
自分を傷つけた相手に怒りを感じている場合。
相手を憎むのは割とシンプルなことでしょう。
しかし相手に「愛されたい」と切に望んでいるのと同時に、相手に大きな怒りを感じていると、複雑になります。
「愛されたい」思いと「憎い」思い。
この相反する二つが交錯するからです。
男女関係ではこういったことも起こりがちですね。
しかし親子関係ではもっと深く、複雑になります。
両者は対等ではない、長い期間があったからです。
幼い頃、子どもは親からの充分な愛やケアが必要です。
子どもは「親からの愛を求めてやまない」存在なのです。
親から愛を十分受けて、精神的な自立に向かった人。
こういった人は大人になって、親からの負の影響を引きずることは比較的少ないでしょう。
しかし親からの愛が十分でなく、精神的な自立にあまり向かえなかった人。
この人は過去の想いを潜在的に持ったままになりがちです。
「親に愛されたい」「認められたい」という未消化の想いがあるため、親へ不満、怒りなどを感じることに、どこか罪悪感を感じてしまうのです。
そして、いつの間にか自分の中にあるネガティブな想い・感情にフタをしてしまいがちです。
そのため「親への復讐心」はAC本人の盲点となりやすいのです。
【4】どうすれば「親への復讐心」を減らせるのか
① 自分の中にあるネガティブな感情・想いを認める
人はポジティブな感情。「喜び」「嬉しさ」「楽しさ」などは良いものとして認めやすい。
しかし「怒り」「悲しみ」といったネガティブな感情。
「恨み」や「憎しみ」といった想いは悪いものとして、ついフタをしてしまいがちです。
もちろんネガティブな感情や想いをそのまま人にぶつけたり、行動したりすると、トラブルになりかねません。
しかし感じることは人間として自然なことです。
「感じたこと」がすぐ「言葉や行動」にならなければ、ひとまずは良いのです。
それどころか、感じることを抑圧していると、かえって無意識のうちに言動に出てしまうリスクもあります。
まずはネガティブな感情・想いを認めること、気付くことが大事です。
② ネガティブな感情・想いをできるだけ解放・解消する
アダルトチルドレンは幼少期の頃から、ネガティブな感情や想いを抑圧していることが多い。
しかもそんな感情や想いを持つこと自体を否定していることも少なくありません。
そのため、押し込めてしまった自分の気持ちをしっかり吐き出し、受け止めてもらえる体験を重ねることは非常に重要です。
この体験を積み重ねることで、 自分自身を認めやすくなり、抑圧していたものが解放・解消に向かいやすくなります。
【5】まとめ
以前の私は「不幸は誰も望まいもの」だと思っていました。
そして「病気になれば、誰もが治したいもの」だとも思っていました。
しかしどうやらそうではないと思えたのは、病院に勤めるようになってからでした。
患者さんは病気を治しに病院に来ているはず。
でも実は無意識の内に「病院が治ってもらっては困る」気持ちを持っている人も意外といるのです。
しかしそれは他人事ではありません。
「良くなりたい自分」と「それにブレーキをかける自分」
この双方が絡みあうことは誰の中でも起こりうることです。
そしてアダルトチルドレンはこの「自分の中でのせめぎあい」が起こりやすい。
そして努力が徒労に終わりやすかったり、人生が混乱しがちです。
だからこそ、この心の働きに目を向けてもらうと非常に良いと思います。
アダルトチルドレン回復の道は、改善を妨げる心理的なブレーキに気付いて緩め、前に進む歩みでもあるのです。