臓器(胃)を失う手術。
受けるかどうか、さんざん迷い悩んだ末
結局受けることに。
どんな結果になったとしても
「自分が決めたこと」
として、受け止めていこう。
そんな覚悟も出来ました。
しかし手術の後、
病室でとても悔しいことがあったのです。
*関連記事「がんが見つかって」
①意識状態が変わる
②「親を憎しみ、恨む」ことで胃に穴をあけてしまった過去
③両親との関係を振り返る、見直す
④両親への心残り・和解
⑤大事な臓器を失うかどうか、選択を迫られる
⑥「臓器を失う手術」にのぞむ
【1】 「手術後の痛み」に耐えられない
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手術が終わって麻酔から覚めた私。
「ついに終わったか」
ちょっと安堵しました。
しかしそれは一瞬のこと。
すぐに猛烈な痛みに襲われます。
手術後の痛み(術後痛)。
内臓、お腹が切られ、縫い合わされたことなどによるもの。
しかしその時はどこかどう痛いのかもよく分からない。
巨大な痛みに圧倒されるばかり。
たまらず、
うめき声をあげずにはいられない。
病室に移動し、そのまますぐに就寝の時間になりました。
しかし痛みは変わらない。
明かりが消された部屋で、手術後初めての夜を過ごすことになりました。
手術直後の私の体には、点滴と痛み止めの注射針が2本。
下腹部には体の内部にたまった液体を排出するチューブが2本が刺さっています。
さらに口には酸素マスク。
術後の状態などを確認するチューブ(胃菅)が鼻からも挿入されています。
体の自由がきかない。
メガネをかける余裕もありません。
そのため、
強度の近眼の私には、周りの状況も自分の体もよく見えませんでした。
ひどい痛みが続くと精神的にも疲弊していきます。
痛みはそれだけではありません。
その時、私は初めて 「床ずれ」 体験したのです。
【2】 「痛み」の訴えが受け入れられない
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「床ずれ」は、寝たきりや車いすで、自分で体の向きを変えられない状態が長く続くとなりやすい。
体重の重みでいつも同じ場所が圧迫されることで、血流が悪くなり、皮膚がただれたり、傷ができてしまうのです。
人は寝ている時。
寝返りなどで少しづつ体の位置を変えるため、床ずれになることはありません。
しかしこの時の私は体を思うように動かせず、姿勢を変えることができなかったのです。
背中やお尻、足など、同じ場所がベットに圧迫され続け、
次第に「床ずれ」の痛みを感じるようになっていたのです。
私は「床ずれ」は知っていました。
介護の仕事をしたこともあるので、寝たきりの人の姿勢を変える(体位変換)をしたこともあります。
しかし自分自身が「床ずれ」になったことは無かった。
「床ずれとはこんなに痛いものだったのか…」
初めて知った痛み。
術後の痛みで大変なのに「床ずれ」の痛みまで重なると、たまったものではありません。
夜間の巡回にきた看護師さんに 姿勢を変える(体位変換)をお願いしたりしました。
体位を変えた直後は痛みが少し少なくなって、ウトウトします。
しかしまた痛みで目が覚めてきます。
その時は、ナースコール(看護師さんを呼ぶボタン)を押して、体位変換をお願いしたりしました。
しかしある時、ナースコールで来てもらった看護師が私に言った言葉がありました。
「自分でやってください。」
と。
そして言葉には明らかに「詰問(きつもん)」つまり「相手を責めるように厳しく質問する」ニュアンスが含まれていました。
暗い病室の中、ぼんやりと見えるもの。
私のベットの両サイドに、ライトをもった二人の看護師。
「手術の当日の夜は看護師が体位変換をすることになっているはず。」
「二人も来てるのに、なぜやらない!!」
痛みに困ってお願いしている。
しかしそれを頭ごなしに否定されたニュアンスを感じたのです。
この時、私は猛烈に腹が立った。
「この野郎、覚えとけよ!!」
そんな言葉が湧いてきます。
私自身、滅多にないことですが、
怒りに体が震えました。
しかしそれは一瞬のこと。
続く痛みがあまりにひどく、意識はもうろうとしています。
怒りを口に出せないまま、なんとか自分で体を動かし、少し姿勢を変えました。
【3】「痛み」で出来ないことは「甘え」か?
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自分が感じている「猛烈な痛み」。
これを否定された。
その後も似た体験がありました。
胃を切った翌日。
胃を切除する手術の後は回復を進めるため、座る姿勢を取ったり、歩行することが推奨されています。
看護師さんは事前の計画通り、私の体を動かす介助をしようと病室にやってきます。
しかし私は体の痛みがあまりにもひどい。
起き上がるのも大変で、歩くなんてとても無理。
それでも、
体格のいい若い男性の看護師さんは、手順通りに私を動かそうとします。
私もやろうとしますが、あまりの痛みにまるで進めない。
私が痛みを訴えていると。
「80才のおじいさんでも、やってるんです。」
「永田さんもやってください。」
と言われたのです。
その言葉に含まれていたニュアンス。
どうも自分の「猛烈な痛み」の訴えが「甘え」のように取られることに、腹が立ちます。
「俺だって、歩きたいに決まってるだろ!!」
しかし、実際それが出来ない自分。
「悔しい…」
「腹が立つ…」
でも、口に出せない。
こんなことが手術後二日目までありました。
【4】 体の回復が進む
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変化があったのは手術後3日目から。
私の体の回復が進んできたのです。
手術翌日は痛みがひどく、ベットの上に座ることもできない。
まさに寝たきりの状況でした。
それが3日目になると、
朝はベットの電動のリクライニング機能を使って少し起き上がれるようになった。
お昼頃には、車輪がついた点滴の台につかまりながら、這いつくばるように少し歩けるようになってきたのです。
そして夕方には、病院内のカフェ(ドトール)にも行ってみました。
まだ点滴をしたまま。
下腹部のチューブもつないだまま。
お店で座った姿勢を保ち続けるのもきつかったけど…
敢えて少しでも先に進みたかった。
体が不自由で思うようにならない「悔しさ」もありました。
それ以上に、
ただ「生きる」ことに貪欲になりたいし、既に貪欲になってきたところもあったのです。
【5】 人の「痛み」を扱うことの難しさ・奥深さ
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私の「痛み」はなぜ受け止められなかったのか?
私が受けた手術はこの病院では珍しくないはず。
同じ手術を受けた他の患者さんの「痛み」はどうだったのか、
ベテランの看護師さんに聞いてみると。
比較的なんとも無い人もいれば、
七転八倒の痛みを訴える人もいて。
患者さんによって様々らしい。
ただその中でも、私の痛みは結構ひどい方だったようです。
そのため「痛み」が「甘え」のように受け取られたところがあったのかもしれません。
なんだか釈然としない…。
でもお陰ですごく実感させられたのは、
「痛みは本人しか分からない」
ということです。
今回私は「身体の痛み」でした。
しかし「心の痛み」でも同じようなことがありますね。
普通の人にとっては何でもないこと。
でも、
強い「心の痛み」・トラウマなどがあって、思い通りにできない。
そんなこともある。
それは
『できるはずなのにやらない「甘え」なのか。』
『「痛み」が大きすぎて、できないことなのか』
どちらか一つが正確ではなく、両者が混在することもあるかもしれません。
ただ、それを周りから判断するのは難しい。
しかし「身体」にしても「心」にしても。
痛みなどの一種の「囚われ」が減ると、その人が持っている力・能力をより発揮しやすくなるのは間違いないでしょう。
人の「痛み」を扱う難しさ。
それともに「人の心の痛み」というテーマを扱う、奥深さも感じたのです。
「身体の痛み」と違って、「心の痛み」は続くと無感覚になることがあります。
一種の「心の自己防衛機能」のようなものでしょう。
そうすると、極度の混乱や不安定の中にいたとしても。
痛みの影響を受けていることに、気づかなくなることがあるのです。
*関連記事「がんが見つかって」
①意識状態が変わる
②「親を憎しみ、恨む」ことで胃に穴をあけてしまった過去
③両親との関係を振り返る、見直す
④両親への心残り・和解
⑤大事な臓器を失うかどうか、選択を迫られる
⑥「臓器を失う手術」にのぞむ
*参考
・胃癌手術後の入院治療計画書(クリニカルパス)
http://www.jgca.jp/guideline/fourth/category2-g.html#H1_G
胃癌治療ガイドライン医師用 日本胃癌学会編(第4版 2014年5月改訂)
・胃全摘出術・胃部分切除術 入院診療計画書
https://www.hosp.hyo-med.ac.jp/activity/clinical_pathway/organ/pdf/12003-08.pdf
関西医科大学