「人から傷つけられること」
誰もが望まないことかもしれません。
アダルトチルドレン(AC)にとって一番嫌な出来事は、親から傷つけられたことでしょう。
これは親から身体的・心理的に攻撃を受けたことだけでありません。
「自分の気持ちを受止めてもらえなかった」「自分を理解してもらえなかった」といったものも含まれます。
親から「愛を持ってちゃんと接してもらえなかった」こと。
子どもにとってはこれが、傷つけられた体験になるのです。
ACは親に対して、悲しみや怒り、憎しみといった想いを潜在的に強く持っています。
心理的に、これはごく自然なことだと思います。
しかし「人から傷つけられた体験」にとらわれ過ぎると、様々な弊害が生まれやすくなります。
その一つは「他人を傷つけること」に過敏になりやすいことです。
■「他人を傷つけること」に過敏になる問題点
「他人を傷つけること」に過敏になると、どういったことが起こるでしょうか。
・他人を傷つけたことに対して、過大な罪悪感を感じてしまい、引きずってしまう
・「他人に手間を取らせた、時間を取らせた」といった、一見些細なことにまで罪悪感を感じてしまう
・他人に振り回されやすくなる
・ストレスが多くなる
・自己否定が強くなる
など
こういったことが多ければ多いほど、人生は混乱し、つらいものになってしまいます。
■「人から傷つけられたこと」「他人を傷づけること」のつながり
「人(親)から傷つけられたこと」に過度にとらわれいる状態。
これは「心の傷」が癒えていない状態でもあります。
体の傷と違って心の傷は見えません。
体の切り傷であれば、皮膚が損傷していたり、血が出ていたり、その傷の程度が見て分かるでしょう。
しかし心の傷は外からは見えない。
アダルトチルドレンは、この心の傷を多く抱えたひとです。
軽いものから重症なものまで。
癒されない無数の心の傷が抱えながら生きているのです。
そして体と同じく、癒されていない傷は痛むのです。
ちょとした刺激であっても、痛みには過敏になりやすい。
そのため「他人の心の傷」に関わることにも過敏になりやすいのです。
■心の傷について
心の傷は誰もが持っているものです。
どんなに満たされた人生を送っていたとしても、傷ついた体験の無い人はいないでしょう。
また体の傷と同じように、心の傷にも「自然治癒力」のようなものが働きます。
小さな擦り傷、切り傷であれば、体が自然と修復します。
そして何事も無かったかのように元の状態に戻してくれますね。
心の傷も小さなものであれば、何事もなかったように忘れてしまいます。
そして後に影響を与えることはないでしょう。
しかし 「自然治癒力」を超える傷を負った時。
体であれば、自分の力だけでは手に負えず、外部の力(医療など)を借りて治す必要も出てくるでしょう。
心も同じです。
「自然治癒力」を超える傷を負った時。
自分だけではその事態を受け止められず、人に話しを聞いてもらったり、受け止めてもらったり。
時には慰めてもらうことによって、その傷が快方に向かうことがありますね。
小さな子どもにとって、この大事な役割を果たすのが親です。
しかしこの親によって心の傷を癒してもらうことができなかったり。
逆に親から傷づけられる体験を繰り返し受けていたとしたら。
癒されない多くの傷を抱えたままになってしまうのです。
そしてこの状態は「人から傷つけられた体験」へのとらわれにつながってしまうのです。
■「人から傷つけられた体験」へのとらわれを減らすには
一つのゴールは「人から傷づけられた体験」が、良いも悪いもないただの出来事のように捉えられることです。
ネガティブな感情にフタをしているのではなく、体験を無視をしているのでもなく、自然とそう思える状態になること。
つまり出来事に対するネガティブな意味づけが外れるほど、とらわれは減ります。
しかし「人から傷つけられた体験」に関わる、悲しみ、絶望感、怒りなどの感情が多ければ多いほど、これは簡単ではありません。
癒されない傷の痛みが大きいと、傷を与えた体験そのものを冷静に見ることが非常に難しくなってしまうからです。
ではその心の傷を癒し、解放するにはどうすれば良いでしょうか?
【1】想いを言葉にすること
「人から傷づけられた体験」は、ネガティブな感情、自己否定感などとともに、感覚的な記憶として自分の中に残されています。
イメージで言えば「形がハッキリしなくて捉えにくいが、強烈に様々なネガティブな影響を引き起こすもの」のようなものです。
捉えにくいものは実体が掴みにくい。
そして自分で扱えないものは不安を引き起こしやすい。
言葉にすることによって「その体験とはそもそもどんなものだったのか」。
「そこで自分はどんなつらい想いになったのか」などが明確になります。
そうするとその体験やその時の自分自身を客観視しやすくなります。
そしてその体験を「扱えるもの」になればなるほど、滞っていた感情も解放されやすく、心の傷が癒されていくのです。
想いを言葉にすること 。
そのためには本当に安心して、ネガティブな想いを口にすることができる「場」がすごく大切になります。
人によっては「自分史」を書くことが癒しにつながることもあるでしょう。
本当に安心できる相手がいれば、その人に伝えることも良いでしょう。
しかし相手は誰でも良いわけでありません。
場合によっては、更に傷つけられる可能性もあります。
自力では難しい場合、また周りに適切な人がいない場合は、信頼性があって、相性の合う専門家の力を借りるのも良いでしょう。
【2】トラウマのケアを行うこと
「人から傷つけられた体験」 や自分の想いを言葉にすることは、ベーシックですがとても強力なものです。
しかしこの方法が難しい領域があります。
それは本人の記憶があまりないものです。
・言葉もはっきりしない小さいころの出来事。
・本人が無意識のうちにフタをしてしまった記憶。
など
こういったものは、言葉にすることができないのです。
この場合はトラウマの負のエネルギーを直接軽減させる「トラウマケア」を行うことが非常に有効です。
このアプローチではつらい記憶を呼び起こす必要がないため、本人の心理的な負担が少ないのも大きなメリットです。
アダルトチルドレンは本人が抱えきれないほど大きな心の傷を抱えています。
そのため、私はトラウマケアとカウンセリングの併用をお勧めしています。
■まとめ
ある面では、アダルトチルドレンは親子関係という、過去に囚われています。
しかし本人が好きでそうなった訳ではありません。
生まれ育った環境の中で、なってしまったに過ぎない。
本人が悪いわけではないのです。
しかし大人となった今、今後どう生きるかは今の環境や親が決めることではありません。
これまで通りでも良いし、過去のとらわれを外す方向でも良い。
犯罪や公序良俗に反しない限り、生き方は本人が決めることだと思います。
しかし変えていきたいと思う人がいれば。
「人から傷つけられた体験」にとらわれる悪影響やメカニズムを知ることは、改善に向けた原動力の一つになるでしょう。
「他人を傷つけること」に過敏な状態は、決して楽ではないからです。
アダルトチルドレン回復の道は「親子関係という過去」の負の影響を減らし、身軽に今と未来を生きようとする道でもあるのです。