がんが見つかって④ 両親への心残り・和解

「生きている時間には限りがある」という事実。
でも毎日の生活で、そんなことは思いつきもしないようになっていました…。

しかし病気が見つかったことで「自分はどう生きたいのか」か改めて問われたような気がします。

そして「生きている間にやっておきたいこと」

その一つは両親と更に和解を進めておくこと。
特に母親との和解でした。

*関連記事「がんが見つかって」
①意識状態が変わる
https://ac-recovery-lab.com/?p=5309
②「親を憎しみ、恨む」ことで胃に穴をあけてしまった過去
 https://ac-recovery-lab.com/?p=5385
③両親との関係を振り返る、見直す
https://ac-recovery-lab.com/?p=5828

【1】母親に対する心残り

父親との和解は結構進んだ私。
もし今、父親が死んだとしても「もっとこうしておけば良かった」という「やり残し感」はあまりありません。

とは言っても、親子関係は心理的に非常に根が深い。
更に心の深いところから、未解消の部分やワダカマリが浮かび上がってくるかもしれません。

一方で母親に対しては「心理的に未解消の部分がまだある。」
そう感じていました。

私が子どもや思春期の頃に抱いていた母親との葛藤。
その中で私が感じていたことには、その後の人生に影響を与えていたと思います。

①「父親の暴力的な言動を受ける母親」を助けられない無力感


家族に対してとても威圧的な父親。
自分の思い通りにならないとすぐに怒りをあらわにし、周りを怒鳴りつける。

その暴力的な言動を一番に受けていたのは母親でした。

母親は言い返したりすることもありましたが、大抵は一方的にやられることが多かった。
私は母親が可哀そうで、なんとか助けたいと思っていました。
しかし小さな子どもであった私は父親を止めることが出来ない。

小さい頃の私はそんな無力感をいつも感じていたのです。

その体験はいつしか「自分には目の前の状況を変える力がない」という、思い込みになっていたと思います。

②「『宗教の教え』という鎧(よろい)で固く心を閉ざした母親」と分かり合えない分離感


父親からの暴力的な言動に疲れ、救いを求めた母親。
ある宗教へのめり込むことになりました。

ある信仰や価値観を『絶対的なもの』として持つと、それに合わないものを否定したり、排除しようとしがちです。

当時、私の母親は子どもに対して、その宗教の教えに近いことをすれば「良い子」で、教えから遠いことをすれば「悪い子」だと考えていたように思います。

しかしその基準(宗教の教え)は、周りの友達の家庭とは大きく違うし、私自身も子どもながら納得していない。

母親は子育ても熱心で、私に一生懸命手を掛けようとしてくれている。

しかし根本的な価値観が違うために、どこか会話がかみ合わない。
話しても話しても通じない。

そんな分離感や絶望感をずっと感じていました。

③「『父親の暴力的な言動』を止められない母親」への苛立ち 、怒り


私は小学生の低学年ぐらいまで、母親の信仰になんの疑問も持ちませんでした。
小さな子どもの活動範囲とても狭く、家庭で当たり前のことは、世間・世界でも当たり前のことだと思っていたのです。

母が語るその宗教の教えも全て正しいものだと考えていました。

しかし成長し交友関係が広がってくると、その宗教の考え方が周りの友人の家庭のものとは違うことに気づいてきます。
そしてだんだん疑問を持つようになってきたのです。

それは母親への不信にもつながっていきました。
母親を信じられなくなってきたのです。

そして次第に 「『父親の暴力的な言動』を止められない」 母の姿にも苛立つようになってきました。


私にとって母親との確執で一番大きなものは宗教でした。
大人になってから「宗教を捨てて欲しい」と何度も話しをしたこともあります。

でもそうはならなかった。
母親との強い葛藤は随分長く続きました。

でも徐々に母親が特定の信仰を持っていることが気にならなくなってきました。

私が小さい頃から持っていた絶望感や怒りなどの解放が進んできたのです。
そうすると子どもの頃という過去。
そして母親、父親に執着しなくても良くなってきたのです。

しかし母親に対しては、まだ深い部分で和解や葛藤を解消しきれていない部分がある。

そう感じていました。

【2】意外に快適だった入院生活

高校生の時から数十年ぶり、2回目の入院・胃の手術が始まりました。

最初の入院は実にひどく、苦しいものでした。
救急車で運ばれ、緊急手術を受けた。
そのため何の準備もないまま病院・病室に放り込まれた感じだったのです。

病室は大部屋で周りの入院患者の様子が丸見え。
プライバシーのない空間。
そして病院食も美味しくなかった。

入院前、またあんな空間で過ごさないといけないのかと思うと、少し憂鬱でした。

しかし今回私が入った病棟はとても新しい建物でした。
病室は相部屋でしたが、カーテンでしっかり区切られ、周りの様子は全く見えません。
部屋や廊下はゆったり広々とした空間で作られ、広い窓からは周りの緑が見渡せる。
以前は嫌だった病院食も、この病院はとても美味しい。

24時間ケアがつく、清潔でゆったりした空間。

「これじゃ、私の自宅よりも快適だな」
そう思えるほどでした。

ただ手術は思っていたよりも大変でした。

今回は内視鏡(胃カメラ)を使った手術。
外科的にお腹を切ることもないので、以前の手術に比べれば全然楽だと思っていました。

しかし実際に受けてみると体への負担は結構大きい。
術後は思ったように体を動かせない時もありました。

ただ入院中はあまりやることがない。

検査を受けたり、時間通りに食事をしたり、薬を飲んだりするぐらい。
考え事をする時間はたっぷりありました。

そしてこれは、両親としっかり話しをする機会でもあったのです。

【3】両親に伝える

今回の入院・手術を期に両親に伝えておきたかったこと。
それは高校生の時に言えなかった、病気の原因。

今さらそんな昔のことを言っても、両親に嫌な想いや悲しい想いをさせるだけかもしれない。

それでも両親との和解を更に進めるためには、いい機会だと思いました。

ある夜、人が居ない閑散とした病院のロビーから私は父に電話をしました。

一通り術後の状況などを伝えた後
「・・実は今回聞いてもらいたいことがある。
 高校生の時、言えなかったことなんだ。」

私は話しを切り出しました。

「あの時、手術を受けた病気の原因は疲れなんかじゃない。
 当時の私が親を強く憎しみ、恨んでいたからなんだ。」

私は続けて当時の自分の想いや状況を伝えました。

もし私が以前のように、怒りや悲しみのまま感情をぶつけてたら、父も反発してケンカになったかもしれません。

しかし今の私は淡々と事実を伝えることが出来た。
自分でも良かったと思いました。

電話の向こうには、父が少し戸惑ったような、うろたえたような雰囲気が感じられます。
でもちゃんと受け止めてくれた。

続いて母にも同じことを話します。

母も少し戸惑ったような雰囲気がありましたが、受け止めてくれた。

今回何か劇的な変化があった訳ではありません。
しかし以前言えなかったことを伝え、受け止められたこと。

これは一種の「打ち明け話」だったかもしれません。

ただこれを伝えることが出来たことで、また少し両親との和解が進んだ感じがします。

【4】終わらない治療

入院中、両親とは何度か話しをすることができました。

現在のこと、過去のこと。
そして今後のこと。
今までになくお互いに向き合えたが感じがします。

気になっていた母親との間のワダカマリも、また少しクリアになった感じがします。

両親は70歳を超えた高齢。父は80歳に近い。
この先何十年も生きることはないと思っている。
死は遠くないものと考えているのです。

そして私の病気が分かって、お互いに「生きている時間には限りがある」という事実に改めて直面させられた。
そんな認識を共有できた。

それが非常に良かったのだと思います。

そう思うと
「がんが見つかったことは、決して悪いことではなかった。」
と思えるようになりました。

感情的には大変だったし、治療にはお金や時間もかかる。

*1週間の入院と手術でかかった費用は約17万円(3割負担)。
 高額医療負担の制度のおかげで、自己負担はこれよりも少なくなりました。

しかし得たものも大きかった。
より「生きること」に目覚めたり、両親との和解が更に進んだ。

「これで治療が終わり、手術跡が元の状態に戻れば、かえって良かったのかもしれない。」
「がんが見つかってからの一連の体験。これを今後に活かしていきたい。」

そんな風にも思えました。

がんが見つかって右往左往した日々。
これを過去の学びとしてして、現在やこれから先の未来に活かす。

そんなイメージが浮かんでいたのです。
そう考えるとちょっと嬉しくなっていました。


しかし、退院して最初の診察の日。
病院の医師から告げられたのは、期待とは逆のものでした。

追加の外科手術が必要だということ。
そして次の手術は胃を全部切り取るものになること…。


もう体が元の状態に戻ることは出来ない。
大事な臓器を失ってしまう..。

治療は終わらなかった。
また更に「生きること」に向き合わされることになりました。


*関連記事「がんが見つかって」
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①意識状態が変わる
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②「親を憎しみ、恨む」ことで胃に穴をあけてしまった過去
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③両親との関係を振り返る、見直す
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⑤大事な臓器を失うかどうか、選択を迫られる
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