大事な臓器を失うかどうか、選択を迫られる(がんが見つかって⑤)

私はがんが見つかったことで、死の恐怖に襲われ、悩みました。

しかしおかげで、普段あまり考えることもなかった「生きること」に真剣に向き合えたり。
長年の課題だった「両親との葛藤」も少し改善に向かいました。

身体の負担が少ない内視鏡(胃カメラ)を使った手術を受けた後、
「手術痕も回復し、これで治療が終了すれば…
がんになったことは決して悪くなかったのかもしれない。」

そう楽観的に思えるようになっていたのです。

しかし退院後、初めての診察で医師から告げられたのは、望んでいたものとは逆でした。

「追加で外科手術が必要」だということ。

そして今度の手術は臓器(胃)を失うものだったのです。

私はまた大きく悩むことになりました。

*関連記事「がんが見つかって」
①意識状態が変わる
https://ac-recovery-lab.com/?p=5309
②「親を憎しみ、恨む」ことで胃に穴をあけてしまった過去
https://ac-recovery-lab.com/?p=5385
③両親との関係を振り返る、見直す
https://ac-recovery-lab.com/?p=5828
④両親への心残り・和解
https://ac-recovery-lab.com/?p=6023

【1】湧き上がる不安を打ち消したい

「転移のリスクがあるのであれば、早く手術をした方がいい…」
「…いや。医師から勧められたとしても、(手術を)受けない選択もアリなのではないか?」

とても動揺し、すごく迷いました。

そして次々と湧き上がる不安を打ち消すかのように、私は自分の病気について徹底的に調べだしたのです。

本やネットには病気の治療や改善に関する様々な情報があふれています。
単に「〇〇に効く(?)」といった商品の売り込みだったり、根拠が曖昧でハッキリしないものも多い。

情報の発信者が誰か明確で、根拠が明確なものを中心に調べていきました。

本は学会が発行している医師向けの「がん治療のガイドライン」まで購入してみました。

医学的な知識がない自分にとってはすごく難解でしたが、色々調べるうちに少しは理解できるようになってきました。

もちろん全ての内容が分かるわけではありません。
ただ自分が直面している「追加の外科手術をするかどうかの場面」については、その判断基準、根拠などある程度分かるようになってきたのです。

がん治療に関する様々な研究や治療実績の膨大な積み重ね。
その成果や結晶として確立されている「標準治療」と呼ばれるもの。

基本的にはこれに沿って、主治医は検査や手術などの治療計画を立ててくれている。

最初は主治医に勧められた内容がショックで、その背景や根拠を話されても、あまり頭に入らず、よく理解出来なかったのです。

感覚的にはまだまだ受け入れ難い外科手術。

でも理解が進み、主治医が勧めてくれたことは全く合理的で理にかなっていると納得するようになりました。

【2】臓器を失う背景

私のケースでは。

追加の外科手術が必要かどうかの判断。
大きくは手術の際に切り取った部位(がんとその周辺組織)の検査結果によります。

胃がんの場合、がんは胃の表面(胃壁)から始まり、徐々に深い部分に広がっていくのです。

そのため胃壁の表層部(第一層)にのみ、がんがあったのであれば、治療はこれで終了するはずでした。

しかし私は第二層にまでがんが到達していたのです。
がん細胞は他の臓器に移る(転移)性質を持っています。

切り取った部位の検査結果は「転移のリスクがとても大きい」というものでした。
そのため、追加の外科手術を勧められたのです。

それでも、私は初期の段階の「早期胃がん」でした。

多くの場合、胃の全部を取る必要はありません。
胃の一部を切り取っても、少しでも残す処置になります。
胃が残っていた方が、術後の身体や生活への影響は少なくて済むのです。

しかし私は既に16才の時に3分の2を切り取っています。
そのため、今回は残っている胃の全部を切除する必要があったのです。

「主治医は最善を尽くしてくれている」
そう思えるようになりました。

しかし気持ち的に外科手術を納得できるかどうかは、また別の問題だったのです。

【3】自分なりの答え(選択)を出す

手術を受けることで病気や死のリスクを減らすことは出来る。
これは間違いない。

でも「生存」するだけでいいのか?
胃をなくした状態は本当に「生きている」と言えるのか?

疑問が湧きました。

その時、私がイメージしていた「胃がない状態で生きている」とは

■死が間近な人に対して延命治療がなされている状態
■気力が下がって弱々しいが、なんとか生きている状態
■体の不自由さ(障害)を抱えて生きる
(言葉はとても悪いですが、こんなイメージでした)

もう暗いイメージしか浮かびません…。

そもそも「胃がない状態で生きている」ことがどうも想像つかない。

「盲腸を切るのとはわけが違う。」
「胃という身近で、分かりやすい臓器が全く無いなんて…。」
「人間はそれでも本当に生きていけるのか?」

胃を全部切った人の体験談を探しても、後遺症に苦しむ人の話しが圧倒的に多く、普通に元気に暮らしている人の話しがあまり出てこない。

色々調べていくうちに、だんだん手術を受けない方に気持ちが傾いてきました。

更に自分の胃カメラの画像を見たことも大きかった。

手術直後はひどかった手術跡。
表面がただれて火傷の痕のようになっていた部分。

それががだいぶ治ってきて、つやのある正常な状態に戻りつつあったのです。

「体の治癒力は凄い!」

回復してきた様子を見て、私はちょっと感激しました。
なんだか自分の胃が愛おしくも感じたのです。

そして思いました。

「転移リスクを減らすのは大事。」
「だからといって、胃をごっそり切り取ってしまうのは、とても受け入れ難い…。」

医師の勧めとは反対に、
「がんが転移するリスクを自己責任で負い、手術はしない。」
「その方が、自分の人生や命により真剣に向き合うことになる」
そんな気もしました。

「人生の目的は長生きではないはず。」
「ならば、もしがんが転移して早く死んだとしても、短くても真剣に生きた人生の方が良いのではないか」

そう考えるようになりました。

…でも本当に良いのか。
自信はなかった。

この大事な選択の場面で手術を受けないこと。
こっちの方が「逃げ」で、むしろ手術に向き合った方が自分の人生にちゃんと向き合ったことになるかもしれない…。

この時点での自分なりの答えは決めたものの、
やはり迷います。

人に相談して、最終的に決めることにしました。

【4】人に相談して…

生涯に渡って影響がある大きな選択。

自分だけではとても負い切れない。
人の知恵・力も借りて、最終的には決めようと思っていたのです。

その一人、キーとなるのは知り合いの医師でした。

健康診断で異常値が見つかり、最初に診察をお願いしたのも。
がんの告知を受けたのもこの医師からでした。

その時この医師は手術設備のない小さな診療所に勤めていました。
そこで紹介状を書いてもらい、手術は地元のがん治療拠点病院につなげてもらったのです。

その医師は自分が関わっている「医療」に、時には疑問や葛藤を感じながらも、しっかり向き合っていこうとしている。

私には詳しいことは分からない。

ただ迷いながらも何とかいいものを目指していこうという想いや姿勢を持っている。
それはとても分かるような気がしていました。

しかも専門分野が消化器。

もともと知り合いだったので、本当はがん患者と医師という立場で向き合いたくは無かった…。
しかし、今回の病気のことで相談するなら最善の相手でした。

そして相談の結果…
手術を受けることに決めました。

選択は全く逆になりました。

理由は色々あります。
一番大きかったのは、自分自身の「無知」「思い込み」に気づかされたのです。

【5】選択のおける「無知」「思い込み」

「胃がない状態で生きている」イメージ。
当初私には暗く絶望的なものしか浮かんでいませんでした。

しかし知り合いの医師に聞いてみると、実際はそうでもないことが分かりました。

術後の後遺症にあたるものは誰でもある。
でもそれがどこまで続くのか、どの程度なのかは人による。

食事に多少の制限はあっても、ごく普通に暮らしている人もたくさんいる事実をちゃんと知ったのです。

どうして私には暗く絶望的なイメージしか浮かばなかったのか?

まずはそんな事実をよく知らなかったということがあるでしょう。
また昔受けた外科手術のトラウマ体験が癒えておらず、過剰に手術を怖がってたところもあった。

無意識のうちに恐れに囚われてしまっていると、周りが見えなくなってしまうことがあります。

さんざん色んなことを調べたとしても、「手術に対する恐れ」を誘発する情報はつい読み飛ばしてしまったり。
逆に 「手術に対する恐れ」 から逃げる情報。
例えば「手術を受けず、結果的に長生きしている高齢者の話し」等にはすぐ飛びついてしまったり。

「恐れ」の感情に囚われていると、状況を冷静に見ることは難しい。

16才の時に受けた緊急手術。

当時の怖さ、悲しみ。
そしてお腹に大きな手術痕が残ったコンプレックスなどの感情に、改めて向き合ってみました。

手術の際中は麻酔を受けていたので、本人の意識はない。
でも私の体自身はその体験を覚えていて、メスが入って体が切られる恐怖をハッキリ覚えている。
そんな感覚まであります。

そういった感覚・感情に意識を向け、クリアリングを進めてみました。
長年手をつけてこなかったものですが、次第にすっきりした感覚も出てきました。

そして改めて目の前の状況を見る。

そうすると、どちらの選択が「自分の人生により真剣に向き合えるか」ハッキリしてきたのです。

「逃げ」が悪いわけではありません。
ただ逃げの姿勢でこの選択に向かうと、結果的に良いことにならない気がする…。

私は手術を受けることを決めました。

【6】主治医に自分の意志・選択を伝える

がんが転移するリスクがあるなら、手術は早い方がいい。

次の診察の際、主治医に
「やっと手術を受けることを決めました。」
と伝えました。

手術を受けることをなかなか決められなかった私。
主治医は行く度に補足で説明してくれ、私の選択を待ってくれていたのです。

「分かりました。では手術の日程を詰めていきましょう。」
主治医は少し安堵した様子でした。


「大事な臓器(胃)がない体で生きていくこと」
私にとっては未知の領域です。

今より不自由になることは間違いないし、未知のことはやはり怖い。

でも
「未知のことに対する怖さ。
手術に向けて覚悟がまだ決まらないところ。
これは手術までにクリアしたり、固めていこう。」

そう思えるようになっていたのです。

*関連記事「がんが見つかって」
【以前の記事】
①意識状態が変わる
https://ac-recovery-lab.com/?p=5309
②「親を憎しみ、恨む」ことで胃に穴をあけてしまった過去
 https://ac-recovery-lab.com/?p=5385
③両親との関係を振り返る、見直す
https://ac-recovery-lab.com/?p=5828
④両親への心残り・和解
https://ac-recovery-lab.com/?p=6023
【次の記事】
⑥「臓器を失う手術」にのぞむ
https://ac-recovery-lab.com/?p=6703

*参考
胃癌治療ガイドライン 医師用 (日本胃癌学会編 第4版 2014年5月改訂)
http://www.jgca.jp/guideline/fourth/index.html

最新の第5版(2018年1月改訂)は書籍で発行されていますが、第4版であればネットで閲覧可能です。

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